memorandums

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情報システムの論文化について

今月配送された情報処理学会論文誌(Vol.48,No.3)の招待論文「情報システム論文の特質と評価」を読みました。本学会フェローの神沼先生による論文です。内容は標題の通りで、社会的ニーズはあるものの、情報システムに関連した論文の採択数は少なく、その原因と対策についてまとめられています。


実は私もこの点について悩んでいたものの一人です。うなずくことしきり。私の取り組んでいる情報システムやシミュレータ等は、要素技術としての新規性はありません。しかし、社会的には類するシステムは存在しないのです。論文化したくてもその論理の組み立て方法が見えないというところで悩んでいました。特に、この論文で指摘されているように、考察や評価が難しいのです。人間と社会が相手ですから、他の分野のように「演算がX%向上した」「認識率がY%向上した」というように一般的な形で評価することが困難なのです。結果的に「使用者のアンケート」に行きつきます。ただ、これではその組織にとって有効かもしれないけど、他では違うかもしれない。工学的じゃないんですね。。。この論文では「利用者の感想のみではなく、少なくとも他の類似の仕組みと比べて、どのような利点があるかを客観的に述べることが必要である」と書かれています。全くその通り。

神沼先生が情報システム論文を査読されるときに参考にされている永田論文があります。ダウンロードして読みましたがこれは必読です。

以下、本論文に掲載されていた「投稿論文に見られる主な問題点」をメモとして記録しておきます。

  • 新規性
    • サーベイが不十分である
    • 関連研究の記述がない
  • 有用性
    • 対象環境での評価がない
  • 正確さ
    • 論理の展開に飛躍が見られる
    • 信頼できる論理の展開がない
    • 表現が曖昧である
  • 論文構成
    • カタログ的(製品マニュアルという意味)な記述に終始している
    • 複文、重文が多く論理の矛盾がある
    • 表層的な記述に終始している
  • その他
    • 利用データが現実と乖離している
    • 論文の目的や論点が曖昧である
    • 論理の展開に一貫性がない
    • 仮説に対する検証ができていない

最後に。本論文にはあえて書いていないのだと思いますが、情報システムが論文化されない要因は、ソフトウェア開発者がおかれている環境もあると思います。開発者が日常的に忙しいということもありますが、

  • 顧客と開発会社との関係、開発者と会社の関係において秘密保持契約があり、特に他社に対して優位にある情報システムに関しては公開しにくい
  • 一般的なソフトウェア開発者は、いわゆる(論文で評価される)研究者とは異なり、対外的に論文を発表することで著しく評価されることは少なく、そんな暇があったら本業で結果を出しなさい、という文化がある

一般的かどうかは保証できませんが、私が見てきた世界ではこのように感じます。それでも、ビジネスプロセスが特許対象となったこと、オープンソース文化が広まってきていることから、この状況は少しずつ変わっていくのかも知れません。でも、直感的には難しいだろうな、と感じてしまいます。