memorandums

日々の生活で問題解決したこと、知ってよかったことなどを自分が思い出すために記録しています。

研究内容を伝える「言葉」がない

どの学校でもやっていることと思いますが、一年に一回、入学希望者向けに配布するパンフレットを更新する仕事があります。

今年も自分の研究室を紹介する文章を更新して大学事務に提出したのですが「伝わりにくいので見直してほしい」とのことでした。

ちなみに、その原稿は以下です。

タイトル:空想を形に変える開発技術で創造する

本文(140文字以内):ヘッドマウントディスプレイ、プロジェクションマッピングモーションキャプチャセンサ、ドローンなどの最新のデバイスとプログラミングを組み合わせたITシステムを開発しています。研究を通して身につけたシステム構築技術はメディア産業はもちろん医療系や銀行系のシステム開発企業でも活かせます。

専門家から見れば、何ともこそばゆい感じがするんじゃないかと思うんです。私の勝手な思い込みかもしれませんが。。。

大学であれば、それこそアカデミックな研究テーマを軸に据え、そのテーマについて真理を追求し、専門分野、世界もっと言えば人類の進歩に貢献するため、研究室に配属されたメンバーとともに仕事をしていく、という感じで記述するべきと思いますが。

私なりに社会貢献を意識すると、サラリーマンとして実社会に身をおいた経験をもとに、開発現場をよりよくするため、あるいは現場ではなかなかできない方法や仕組みや支援システムをテーマに掲げたいところでした。

しかし、大学にいながらにしてそうした研究するのはかなりシンドイのです。企業には当然ながら守秘義務があります。簡単に思いつきで試してみることはできません。赴任以来、数年間にわたって前職の企業とおつきあいさせていただいたのですが、現場の中に足を踏み入れて深い研究をすることはできませんでした。もし、できたとしてもそこで得た情報を研究成果として公開することは難しかったでしょう。そうしたジレンマを抱えてきました。たぶん、企業出身の方であれば同じような悩みを感じられていることと思います。

そのような状況でも、学生(学部生)に卒業研究をさせて世の中に送り出さなければなりませんでした。

学生さんに少しでもプログラミングやソフトウェア開発に興味を持ってもらいたいという思いから「ゲーム」を授業の題材にすることが多くありました。とはいっても私自身はゲーム業界にいたわけでもありませんし、子供の頃は遊んでいたとしても今はゲーマーではありません。それでも、ガジェットや新しい仕組みには興味がありますので、そうした新しいモノ・コトを自然と取り入れた対象を「研究」と称して扱ってきました。ちなみに、これまで10年近く扱ってきた卒業研究のタイトルは以下になります。

http://swken.joho.fuk.kindai.ac.jp/?page_id=1330

このようなことを10年近くやってきて「大学=アカデミックな事柄を扱わなければならない」という私の思いこみというか呪縛からそろそろ解放されてもいいんじゃないか。。。と思えてきました。諦めでもあるかもしれません。

研究としての「先端」といえば、成果をトップジャーナルに投稿し受理されることであり、トップカンファレンスに登壇して表彰を受けることと言えると思います。一方、人に多様性があるように、研究(の評価・捉え方)にも多様性があってもいいんじゃないか。。。とも思うんです。やりたいことをやるための言い訳かもしれませんが。

昔話になりますが、私が就職するときに(世の中をよく知らなかったものですので。。。)電機メーカーやITシステムの開発企業でカチッっとした製品を作るというイメージは持てませんでした。20年以上前の話です。

自由に発想して、なんか世の中にないものを作りたい、というぼんやりしたイメージだけはあったのですが。。。そんなことを仕事にしているような就職先はありませんでした。強いて言えば玩具メーカーくらいでした。基礎も実力もないのにそんなことばかり考えているうちに就職先がなくなって。。。先生のツテで前職に就職して10年働いたんです。。。結果的に素晴らしい体験ができたのですが、このモヤモヤっとしたことは実現できずにいましたし、最近まで忘れていたように思います。

今であれば、例えば、Cervoさんみたいなとても魅力的な企業があります。Kickstarterで開発したモノを売り込むこともできます。チームラボさんのような一般の方にも認知された夢のような企業もあります。

cerevo.com

www.team-lab.com

こういう仕事は、専門家ではない一般の人にどう伝えるのでしょう?「トヨタ自動車に入社が決まった」と言えば「自動車作りに関わるのね」と思うでしょうし「〇〇食品(製薬)に決まった」と言えば「食べ物や薬に関わるのね」と伝わるでしょう。

その一方で、Cervoさんやチームラボさんの場合は。。。手段はITでありエレクトロニクスと思います。何をしている企業でしょう。アート作品?実用製品?玩具?体験?QoLをあげるなにか?成果物ではなく、その企業で働く人たちは何を考え何をしようとしているのか?を伝えとしたら、どういう言葉が適切でしょう?考えるヒントになりそうです。

こうした「企業」だけではなく学会にも私がイメージしてきたようなテーマを扱う場所があります。先日、参加させていただいたインタラクションはその1つです。ただ、ここでは、もちろん開発より研究が主ですので、ただ面白ければいいというわけではなく、Human Computer Interactionに関わる新しい方法論や仕組みを提案することが基本になります。

もう少しライト(気軽に始められるけど、実はディープな取り組みでもあると思うのですが)な取り組みとして、ファブラボやMakerがあります。

FabLab Japan Network

Make: Japan | Makers

小学生の頃に参加していた、地元の科学館で開催されていた発明工夫展の延長のような取り組みの匂いがします。懐かしいです。。。

冒頭の私の研究内容を伝える言葉が見つからないことに対しての問いは。。。まだ答えが出ていません。1つ有望なのが「ライフハック」だと気付かされました。「ハックする」確かに言われて見ればそうなんですね。。。既存のモノを改良したり組み合わせたり本来の使い方とは異なる使い方をしてみたり。。。要はそういうことをやってきました。もう少ししっかり書くと、やりたいことは「既存の開発環境、コンピュータ、マイコン、デバイス、材料、センサー、インターネットなどを組み合わせて、今の世の中には存在しないものを創り出したい」ということです。場合によっては、個々の要素を改良したり自作することはあるかもしれませんが、それが主ではありません。この微妙なニュアンス(境界?)が伝わりにくいようです。。。

情報処理学会 第79回全国大会


ただ、事務の方にも言われましたが「ライフハック」はまだまだ一般に浸透しているとは言えない(自動車や食品や薬と比べて)ことは確かですので、そうしたモノを生み出すことをどう説明していいのか、その言葉がないことに気付かされたわけです。ちょっと前に「フィジカルコンピューティング」という言葉が出てきましたが、これも浸透しているとはいえませんし、廃れてきた感もあります。

同僚の先生と開き直って「わからないからこそ知りたいと思うんじゃないか?」も一理あると思うんです。全部がわかってしまっては知りたい欲求はわかないでしょうし。

中身は知らなくても、成果物やそれを作り出す行為の全体像を伝える言葉が欲しい。。。そんな悩みについて書き出したエントリーでした。

おしまい。